く、八番坑には坑夫が増員された。
 課長は、鉱石の存在する区域をある限り、隅々まで掘りおこすことを命じた。井村の推定は間違っていなかった。それは、恐ろしく巨大な鉱石の塊《かたまり》だった。
「あんたは、自分の立てた手柄まで、上の人に取られてしまうんだね。」
 タエは、小声でよって来た。カンテラが、無愛想に渋り切った井村の顔に暗い陰影を投げた。彼女は、ギクッとした。しかしかまわずに、
「たいへんなやつがあると自分で睨んだから、掘って来たんだって、どうして云ってやらなかったの。」
 なじるような声だった。
「やかましい!」
「自分でこんな大きな鉱石を掘りあてときながら、まるで他人の手柄にせられて、くそ馬鹿々々しい。」
「黙ってろ! やかましい!」
 黄銅鉱は、前方と、上下左右に、掘っても/\どこまでもキラ/\光っていた。彼等はそれを掘りつゞけた。そこは、巨大な暗黒な洞窟が出来て来た。又、坑夫が増員された。圧搾空気を送って来る鉄管はつぎ足された。まもなく畳八畳敷き位の広さになった。
 それから十六畳敷き、二十畳敷きと、鑿岩機で孔を穿ち、ダイナマイトをかけるに従って洞窟は拡がって来た。
「これ
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