のない課長は、市三が鉱車《トロ》で押し出したそれで、既に、上鉱に掘りあたっていることを感づいていた。
「糞ッ!」井村は思った。
 課長のあとから阿見が、ペコ/\ついて来た。課長は、石を掘り残しやしないか、上下左右を見まわしながら、鑿岩機のところまでやって来た。そして、カンテラと、金の金具のついた縁なしの眼鏡を岩の断面にすりつけた。そこには、井村の鑿岩機が三ツの孔を穿ってあった。
「これゃ、いゝやつに掘りあたったぞ。」
 彼は、眼鏡とカンテラをなおすりつけて、鉱脈の走り具合をしらべた。「これゃ、大したもんに掘りあたったぞ、井村。」
 井村は黙っていた。
「どうもこゝは、大分以前からそういう臭いがしとりました。」「うむ、そうだろう。」と阿見が答えた。
 阿見は何か、むずかしげな学問的なことを訊ねた。課長は説明しだした。学術的なことを、こまごまと説明してやるのが、大学で秀才だった課長はすきなのだ。阿見は、そのコツを心得ていた。
「全く、私も、こゝにゃ、ドエライものがあると思って掘らしとったんです。」
「糞ッ!」
 又、井村は思った。
 課長の顔は、闇の中にいき/\とかゞやいていた。
 間もな
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