い鉱山で、彼女は、全然、鉱毒の及ばない山の、みず/\しい青い樹のようだった。いつか、前に、鑿岩機をあてがっている時、井村は、坑内を見まわりに来た技師の眼が、貪慾げにこの若い力のはりきった娘の上に注がれているのを発見した。
技師は、ひげもじゃの大きな顎を持っていた。そして学校に上る子供があった。しかし、その眼は、鉱脈よりも、娘々したタエに喰い入るように注がれていた。ひげもじゃの顎と、上唇をあつかましい笑いにほころばせながら。
「これゃ、この娘も、すぐ、あのひげの顎に喰われるぞ。」
井村は、何故となく考えた。それから、彼のむほん気が、むら/\と動いて来た。それまでは、彼はたゞ一本のみずみずしい青葉をつけた樹を見るように彼女を見ていたゞけだった。まもなく彼は、話があるから廃坑へ行かないかと、彼女に切出した。
「なアに?」
彼女は、あどけない顔をしていた。
「話だよ。お前をかっさらって、又、夜ぬけをしようってんだ。」
ほかの者の手前彼は、冗談化した。
「いやだよ。つまんない。」
スボ/\していた。
しかし、昼食の後、タエは、女達の休んでいるカタマリの中にいなかった。彼は、それを見つ
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