も、それをむさぼり取ることが出来ない。彼は、これからさき、幾年、こんなところで土を掘りつゞけなけりゃならんか分らない。それを思うとうんざりした。しまいには、落盤にへしゃがれるか、蝕《むし》ばまれた樹が倒れるように坑夫病《よろけ》で倒れるか、でなければ、親爺のように、ダイナマイトで粉みじんにくだかれてしまうかだ。
彼等は、恋まで土鼠のような恋をした。土の中で雄が雌を追っかけた。土の中で雄と雌とがちゝくり合った。タエは、石をいじる仕事にも割合荒れない滑かな肌を持っていた。その肌の下にクリ/\張りきった肉があった。彼女は、かびくさい坑道を別な道から足音かるくやって来た。井村は、斜坑を上り切ったところに待っていた。彼は、タエが、そこへやって来るのを知っていた。その淀んだ空気は腐っていた。湿気とかびの臭いは、肺が腐りそうにひどかった。しかし、彼は、それを辛抱した。
彼女はやって来ると、彼の××××、尻尾を掴まれて、さかさまにブラさげられた鼠のようにはねまわった。なま樹の切り口のような彼女の匂いは、かびも湿気も、腐った空気をも消してしまった。彼は、そんな気がした。唇までまッ白い、不健康な娘が多
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