髪がのびると特別じゝむさく見える柴田が、弟をすかすように、市三の肩に手を持って来た。
「あン畜生、一つ斜坑にでも叩きこんでやるか!」十番坑の入口の暗いところから、たび/\の憤怒を押えつけて来たらしい声がした。
「そうだ、そうだ、やれ/\。」
その時、奥の方で、ハッパが連続的に爆発する物凄い音響が轟いた。砕かれた岩が、ついそこらへまで飛んで来るけはいがした。押し出される空気が、サッと速力のある風になって流れ出た。つゞいて、煙硝くさい、煙《けむ》のたまが、渦を捲いて濛々と湧き出て来た。
三
井村は、タエに、眼で合図をして、何気ない風に九番坑に這入った。
「いイ、いイ。」
彼女の黒い眼は答えていた。
ハッパが爆発したあと、彼等は、煙《けむ》が大方出てしまうまで一時間ほど、ほかで待たなければならない。九番坑の途中に、斜坑が上に這い上って七百尺の横坑に通じている。彼は、突き出た岩で頭を打たないように用心しながら、その斜坑を這い上った。はげしい湿気とかびの臭いが一層強く鼻を刺した。所々、岩に緑青《ろくしょう》がふいている。そして、岩は、手を触れると、もろく、ポロ/\ところげ
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