皆がひまをつぶして損だ。じっとおとなしくしとりゃえゝんだ。」
 彼は儲けた金を家へすぐ送る必要がなかったので、醤油屋へそのまゝ、利子を取って貸したりしていた。悪くするとそれをかえして貰えない。宇一は、そんなことにまで気をまわしているのであった。
 それを知っている健二はなおむか/\した。
「おい、お主等どうだい?」
 ふと煤煙にすゝけた格子窓のさきから、聞覚えのある声がした。
「おや、君等もやられたんか!」窓際にいた留吉は、障子の破れからのぞいて、びっくりして叫んだ。
 そこには、他の醤油屋で働いていた同村の連中が、やはり信玄袋をかついで六七人立っていた。彼等も同様に、賃銀を貰わずに、追い出されたのであった。

     三

 ある朝、町からの往還をすぐ眼下に見おろす郷社の杜へ見張りに忍びこんでいた二人の若者が、息を切らし乍《なが》ら馳せ帰って来た。
「やって来るぞ! 気をつけろ!」
 暫らくたつと、三人の洋服を着た執達吏が何か話し合いながら、村へ這入って来た。彼等は豚小屋に封印をつけて、豚を柵から出して、百姓が勝手に売買することを許さなくするためにやって来たのである。
 百姓達は、
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