それに対して若者が知らして帰ると共に、一勢に豚を小屋から野に放つことに申合せていた。
健二は、慌てゝ柵を外して、十頭ばかりを小屋の外へ追い出した。中には、外に出るのを恐れて、柵の隅にうずくまっているやつがあった。そういうやつには、彼は一と鞭を呉れてやった。すると、鈍感なセメント樽のような動物は割れるような呻きを発して、そこらにある水桶を倒して馳せ出た。腹の大きい牝豚は仲間の呻きに鼻を動かしながら起き上って、出口までやって来た。柵を開けてやると、彼女は大きな腹を地上に引きずりながら低く呻いてのろのろ外へ出た。
裏の崖の上から丘の谷間の様子を見ていた留吉が、
「おい、皆目、追い出す者はないが、……宇一の奴、ほんとに裏切りやがったぞ!」
と、小屋の中の健二に呼びかけた。
「まだ二十匹も出ていないが……。」
「ええ!」健二は自分の豚を出すのを急いだ。
「佐平にも、源六にも、勘兵衛にも出さんが、おい出て見ろ!」留吉はつゞけて形勢が悪いことを知らせた。「これじゃ駄目だ!」
少くともこういうことは、皆が一勢にやらなければ成功すべきものではない。少数ではやった者がひどいめにあうばかりだ。それだ
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