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「……やちもないことになった。賃銀も呉れやせずじゃないか。……誰れが争議なんどやらかしたんかな。」彼は、既にその時から、傭主を憎むよりは、むしろ争議をやった仲間を恨んでいた。
「こんなずるい手段で来ると知っとりゃ、前から用意をしとくんじゃったのに……。」健二は自分の迂闊さを口惜しがった。
同じ村から来ている二三の連中が、暫らくして、狐につまゝれたように、間の抜けた顔をして這入って来た。
「おい、お主等、このまゝおとなしく引き上げるつもりかい! 馬鹿々々しい!」村に妻と子供とを置いてある留吉が云った。「皆な揃うて大将のとこへ押しかけてやろうぜ。こんな不意打を食わせるなんて、どこにあるもんか!」
彼等は、腹癒せに戸棚に下駄を投げつけたり、障子の桟を武骨な手でへし折ったりした。この秋から、初めて、十六で働きにやって来た、京吉という若者は、部屋の隅で、目をこすって、鼻をすゝり上げていた。彼の母親は寡婦で、唯一人、村で息子を待っているのであった。
「誰れが争議なんかおっぱじめやがったんかな。どうせ取られる地子は取られるんだ。」宇一は、勝手にぶつ/\こぼした。「こんなことをしちゃ却って、
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