が、なんでも、地子のことでごた/\しとるらしいぜ。」
「どういう具合になっとるんです?」
健二は顔を前に突き出した。――今年は不作だったので地子を負けて貰おう。取り入れがすんですぐ、その話があったのは彼も知っていた。それから、かなりごた/\していた。が、話がどうきまったか、彼はまだ知らなかった。
杜氏は、話す調子だけは割合おだやかだった。彼は、
「お主の賃銀もその話が片づいてから渡すものは渡すそうじゃ、まあ、それまでざいへ去《い》んで休んどって貰えやえゝ。」と云った。
「そいつは併し困るんだがなあ。賃銀だけは貰って行かなくちゃ!」
既に月の二十五日だった。暮れの節季には金がいるから十二月は日を詰めて働いたのであった。それに、前月分も半分は向うの都合でよこしていなかった。今、一文も渡さずに放り出すのは、あまりに悪辣である。健二は暫らく杜氏と押問答をしたが、結局杜氏の云うがまゝになって、男部屋へ引き下った。そこでふだん着や、襦袢や足袋など散らかっているものを集めて、信玄袋に入れ、帰る仕度をした。
「おや、君も暇が出たんか?」宇一が手を拭き乍《なが》ら這入って来た。
「うむ。……君もか
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