れ彼れに貸付けたりしていた。ついすると、小作料を差押えるにもそれが無いかも知れない小作人とは、彼は類を異にしていた。けれども、一家が揃って慾ばりで、宇一はなお金を溜るために健二などゝ一緒に去年まで町へ醤油屋稼ぎに行っていた。
村の小作人達は、百姓だけでは生計が立たなかった。で、田畑は年寄りや、女達が作ることにして、若い者は、たいてい町へ稼ぎに出ていた。健二もその一人だったのである。彼は三年ほど前から町へ働きに出、家では、親爺や妹が彼の持って帰る金をあてにして待っていた。
醤油屋は村の田畑殆んどすべての地主でもあった。そして、町では、彼の傭主だった。
昨年、暮れのことである。
火を入れた二番口の醤油を溜桶に汲んで大桶《おおこが》へかついでいると、事務所から給仕が健二を呼びに来た。腕にかゝった醤油を前掛でこすり/\事務所へ行くと、杜氏《とうじ》が、都合で主人から暇が出た、――突然、そういうことを彼に告げた。何か仔細がありそうだった。
「どうしたんですか?」
「君の家の方へ帰って見ればすぐ分るそうだが……。」杜氏は人のいゝ笑いを浮べて、「親方は別に説明してやることはいらんと怒りよった
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