だりすると大変だぜ。俺等ちゃんと用意しとるんだ。」健二はわざと大仰《おおぎょう》に云った。それで相手の反応を見て、どういうつもりか推し測ろうとする考えだった。
宇一は、顔に、直接、健二の視線を浴びるのをさけた。暫らくして彼は変に陰気な眼つきで健二の顔をうかゞいながら、
「お上に手むかいしちゃ、却ってこっちの為になるまいことい。」と、半ば呟くように云った。
地主は小作料の代りに、今、相場が高くって、百姓の生活を支える唯一の手だてになっている豚を差押えようとしていた。それに対して、百姓達は押えに来た際、豚を柵から出して野に放とう、そうして持主を分らなくしよう。こう会合できめたのであった。会の時には、一人の反対者もなかった。それがあとになって、自分の利益や、地主との個人的関係などから寝返りを打とうとする者が二三出て来たのであった。
宇一の家には、麦が穂をはらんで伸びている自分の田畑があった。また、よく肥大した種のいゝ豚を二十頭ばかり持っていた。豚を放てば自分の畠を荒される患《うれ》いがあった。いゝ豚がよその悪い種と換るのも惜しい。それに彼は、いくらか小金を溜めて、一割五分の利子で村の誰
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