がまゝにされている中に、その一隅の麦畑は青々と自分の出来ばえを誇っているようだった。
二
もう今日か明日のうちに腹から仔豚が出て来るかも知れんのだが、そういうやつを野ッ原へ追い放っても大丈夫だろうかな、無惨に豚を殺すことになりはしないか。腹が重く、動作がのろいんだが、健二はやはりこんなことを気遣った。
しかし、それはそれとして、今度の計画はうまく行くかな、やりしくじると困るんだ。……
そこへ親爺が残飯桶を荷って登って来た。
「宇平ドンにゃ、今、宇一がそこの小屋へ来とるが、よその豚と間違うせに放すまい、云いよるが……。」と、親爺は云った。
健二は老いて萎《しな》びた父の方を見た。残飯桶が重そうだった。
「宇一は、だいぶ方々へ放さんように云うてまわりよるらしい。」親爺は、桶を置いて一と息してまた云った。
「えゝ※[#感嘆符疑問符、1−8−78]……裏切ってやがるな、あいつ!」健二は思わず舌打ちをした。
「放したところで、取られるものはどうせ取られるやら知れんのじゃ。」親爺は、宇一にさほど反感を持っていないらしかった。寧ろ、彼も放さない方がいゝ、とも思っているようだった
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