ともしなかった。
「おい、こら!」
「ウ、ウウ。」牝豚はやはり寝ていた。
「おい、こら!」爺さんは、又、棒を動かした。
健二と留吉は草にかくれてくっ/\笑った。
一日かゝって、三人の役人は、結局、柵に固く栓をして、初めから豚を出さなかった、二三の小屋にのみ封印して、疲れ切って帰って行った。彼等は、それが自分達に降った裏切者の小屋であるとは気づく余裕がなかった。同様に手むかいをする百姓のだと思って、故意に厳重に処置をした。
四
二週間ほどたって、或る日、健二が残飯桶をかついで丘の坂路を登っていると、彼の足音を聞きつけて、封印を附けられた宇一の小屋から二十匹ばかりが急に揃って、割れるような呻きを発して、騒ぎだした。饉《う》え渇して一時に餌を求めている呻きだった。
彼が桶を置いて小屋に這入って見ると、裏切者の豚は、糞で真黒に汚れ、痩せこけて、眼をうろ/\させながら這っていた。
どうせ地主に取られることに思って、宇一は餌もやらなければ、ろくに世話もしなかったのである。
豚は、必死に前肢を柵にかけ、健二をめがけて、とびつくようにがつ/\して何か食物を求めた。小屋のわめき
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