畑に近い方でも誰れかが棒を振って、寄せて来る豚を追いかえしていた。
「叱ッ、これゃ! 麦を荒らしちゃいかんが!」
それは、自分の畑を守っている宇一だった。
「叱ッ、これゃ、あっちへ行けい!」
どれもこれも自分の豚ではなかったので彼は力いっぱいに、やって来るやつをぶん殴った。豚は彼の猛打を浴びて、またそこからワイシャツの方へ引っかえした。
裏切った者があるにもかゝわらず、放たれた豚の数は夥《おびただ》しいものだった。暫らくするうちに、二人のワイシャツはへと/\に疲れ、棒を捨てて、首をぐったり垂れてしまった。……
「そら、爺さんがやって来たぜ。」
やっと丘の上へ引っかえして、雑草の間で一と息ついていた留吉が老執達吏を見つけた。
「どれ、どこに?」谷間ばかりを見下していた健二がきいた。
「そらその下だ。」留吉は小屋の脇を指さした。
痩せて、骸骨のような、そして険しい目つきの爺さんが、山高をアミダにかむり、片手に竹の棒を握って崖の下へやって来た。
「おい、こらッ!」
大きな腹をなげ出して横たわっている牝豚を見つけて、彼は棒でゴツ/\尻を突ついた。
豚は「ウウ」と、唸って起き上ろう
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