込みそうだった。しかし、夢中に馳せまわっていながら、崖端に近づくと、一歩か二歩のところで、安全な方へ引っかえした。
 三人は、思わず驚きの眼を見はって、野の豚群を眺め入った。
 ところが、暫らくするうちに、二人の元気な男は、怒りに頸すじを赤くした。そして腕をぶる/\振わせだした。豚が野に放たれて呻き騒いでいる理由が分ったのであった。

 三十分程たった頃、二人は、上衣を取り、ワイシャツ一つになって、片手に棒を握って、豚群の中へ馳こんでいた。頻りに何か叱※[#「口+它」、第3水準1−14−88]した。尻を殴られた豚は悲鳴を上げ、野良を気狂いのように跳ねまわった。
 二人は、初めのうちは、豚を小屋に追いかえそうと努めているようだった。しかし豚は棒を持った男が近づいて来ると、それまでおとなしくしていたやつまでが、急に頭を無器用に振ってはねとびだした。二人はいつの間にか腹立て怒って大切なズボンやワイシャツが汗と土で汚れるのも忘れて、無暗に豚をぶん殴りだした。
 豚は呻き騒ぎながら、彼等が追いかえそうと努めているのとは反対に、小屋から遠い野良の方へ猛獣の行軍のようになだれよった。
 と、向うの麦
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