してその拍子にとび/\しながら柵から外へ出た。三人の、大切な洋服を着た男は、糞に汚れた豚に僻易して二三歩あとすざりした。豚は彼等が通らせて呉れるのをいゝことにして外へ出てしまった。
 一匹が跳ね、騒ぎだしたのにつれて、小屋中の豚が悉く、それぞれ呻き騒ぎだした。そうして、柵を突き倒しては、役人の間を走りぬけて外へ出た。きれいな髭の男は、やっと、この豚どもを逃がしてはならないことに気づいて、あとから白い手を振り上げて追っかけた。追っかけられると、豚はなお向うへ馳せ逃げた。
「チェッ! 仕様がない。」洋服の男は、これは百姓に入れさせればいゝつもりで、苦々しい笑いを浮べ乍ら次の小屋へやって行った。
 二軒目の小屋には一頭もいず、がらあきだった。彼等は何気なく三軒目へ這入った。そこにも、十個ばかりの柵が、がらあきでたゞ仔豚をかゝえた牝が一匹横たわっているばかりだった。そこで、二十分ばかりかゝって、初めての封印をして、彼等は外に出た。ところが、その時には、丘にも谷間にも豚群が呻き騒いで、剛《かた》い鼻さきで土を掘りかえしたり、無鉄砲に馳せまわったりしていた。豚は一見無神経で、すぐにも池か溝かに落ち
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