。
「うむ、大丈夫さ」
だが、力の強い、鰹船に行っていた川井がすぐ、帯剣だけで立ち上った。
三人は、小屋から外に出た。一面に霜が降りた曠野は、月で真白だった。凍った大地はなお、その上に凍ろうとしていた。三人が歩くと、それがバリ/\と靴に踏み砕かれて行った。
一町ほど向うの溝の傍で、枯木を集めようとして、腰をのばすと浜田は、溝を距てゝ、すこし高くなった平原の一帯に放牧の小牛のような動物が二三十頭も群がって鼻をクンクンならしながら、三人をうかがっているのを眼にとめた。
「おい、蒙古犬だ!」
彼は思わず叫んだ。
初年兵の後藤が束ねた枯木を放り出して、頭をあげるか、あげないうちに、犬の群は突撃を敢行する歩兵部隊のように三人をめがけて吠えついてきた。浜田は、すぐ銃を取った。川井と、後藤とは帯剣を抜いた。小牛のように大きい、そして闘争的な蒙古犬は、物凄くわめき、体躯を地にすりつけるようにして迫ってきた。それは、前から襲いかゝってくるばかりでなく、右や、左や、うしろから人間のすきを伺った。そして、脇の下や、のど笛をねらってとびかゝった。浜田はそれまで、たび/\戦場に遺棄された支那兵が、蒙古
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