那を×ることや、ロシアを××ることにゃ、××てあげて××やがって、俺れらから取るものは一文も負けずに、むしり取りくさるんだ。」
「うむ、ふんとだ!」
「満鉄がどれだけ配当をしたって、株を持たん俺れらにゃ、一文も呉れやしねえからな。」
 特務曹長に、兵卒の思想についても気を配るように云い含められてきている深山軍曹は、話をほかへ持って行こうとした。
「よせ、よせ。そんなことは。」彼は、叱るように云った。
「俺ら、なにも、嘘を話してるんじゃねえんだ。有る通りを云ってるんだ。」
 大西は、××にかまわなかった。
 本隊を離れてしまった彼等には、×の区別も×の区別もなかった。恐れる必要もなかった。××と雖も、××の前には人間一人としての価値しかなかった。そして、××は、使おうと思えば、いつでも使えるのだ。九時すぎに、薪が尽きてきた。浜田は、昼間に見ておいた枯れ木を取りに、初年兵の後藤をさそった。
「俺ら、若しもの場合に、銃を持って行くから、お前、手ぶらで来て呉れんか。」と、浜田は、後藤に云った。「銃を持った日にや、薪は皆目かつがれやしねえからな。」
「大丈夫かい。二人で?」大西は不安げな顔をした
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