。
深山軍曹は、それを喜ばなかった。浜田がビンの栓《せん》を取ると、
「毒が入って居るぞ!」と、含むところありげな眼をした。
「そんなこたない。俺れが毒みをみてやろう。」傍から大西が手を出した。
「いや、俺れがやる。」
浜田は、さきに、ガブッと一と口飲んでみた。そして、大西に瓶を渡した。大西は味をみると、
「ナーニ、毒なんか入って居るもんか、立派な酒だ!」
と舌つゞみを打った。
酒は、ビンから喇叭《ラッパ》のみにして、八人の口から口にまわった。兵士たちの、うまそうな、嬉しげな様子を見ると、とうとう深山軍曹も手を出した。そして、しまいには酔った。眼のふちが紅くなった。
次の晩には、もう、不安は、彼等を襲わなかった。附近で拾い集めてきた枯木と高梁稈を燃して焚き火をした。こんなとき、いつも雑談の中心となるのは、鋳物工で、鉄瓶造りをやっていた、鼻のひくい、剛胆な大西だった。大西は、郷里のおふくろと、姉が、家主に追立てを喰っている話をくりかえした。
「俺れが満洲へ来とったって、俺れの一家を助けるどころか家賃を払わなきゃ、住むこたならねえと云ってるんだ。×のためだなんてぬかしやがって、支
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