犬に喰われているのを目撃してきていた。それは、原始時代を思わせる悲惨なものだった。
彼は、能う限り素早く射撃をつゞけて、小屋の方へ退却した。が、犬は、彼らの退路をも遮っていた。白いボンヤリした月のかげに、始め、二三十頭に見えた犬が、改めて、周囲を見直すと、それどころか、五六十頭にもなっていた。川井と後藤とは、銃がないことを残念がりながら、手あたり次第に犬を剣で払いのけた。が、犬は、払いのけきれない程、次から次へとつゞいて殺倒した。全く、彼等を喰い殺さずにはおかないような勢いだった。その時、浜田は、自分の銃でない、ちがった銃声を耳にした。それは、三八式歩兵銃の銃声ではなかった。見ると、支那兵の小屋に近い方から、四五人の黒いかげが、やはり蒙古犬にむかって、しきりに射撃をつゞけていた。
小屋に残っていた六人は、窓に吊した破れたアンペラのかげから外をのぞいた。猛々《たけ/″\》しい犬は、小屋をも遠巻きに取巻いて、波のように、うごめき呻っていた。月のかげんで、眼だけが、けい/\と光っているのも見えた。すぐさま、彼等は、銃を取った。そして小屋から踊り出た。
犬の群は、なか/\あとへは引かなか
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