縞柄を見たり、示指《さしゆび》と拇指《おやゆび》で布地《きれじ》をたしかめたりした。彼女は、彼の助言を得てから、何れにかはっきり買うものをきめようと思っているらしかった。しかし、清吉にはどういう物がいゝのか、どういう柄が流行しているか分らなかった。彼は上向《うえむき》に長々とねそべって眼をつむっていた。彼女はやがて金目を空《そら》で勘定しながら、反物を風呂敷に包んだ。
「友吉にゃ、何を買うてやるんだ。」清吉は眼をつむったまゝきいた。
「コール天の足袋。」
「そうか。」と、彼はつむっていた眼を開けた。
 妻は風呂敷包みを持って、寂しそうに再び出かけていた。
 もっと金を持たせると元気が出るんだが……そう思いながら、彼は眼をつむった。こゝ十日ほど、急に襲って来た寒さに負けて彼は弱っていた。軽い胸の病気に伴い易い神経衰弱にもかゝっていた。そして頭の中に不快なもがもが[#「もがもが」に傍点]が出来ていた。
「これ二反借って来たんは、丸文字屋《まるもんじや》にも知らんのじゃけど……」
 もう行ったことに思っていたお里が、また枕頭へやって来た。
「あの、品の肩掛けと、着物に羽織は借って戻ったんを番
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