た。
 扉の中は暗かった。そこには、獣油や、南京袋の臭《にお》いのような毛唐の体臭が残っていた。栗本は、強く、扉《ドア》を突きのけて這入って行った。
「やっぱし、まっさきに露助を突っからかしただけあるよ。」
 うしろの方で誰れかが囁《ささや》いた。栗本は自分が銃剣でロシア人を突きさしたことを軽蔑していると、感じた。
「人を殺すんがなに珍しいんだ! 俺等は、二年間×××の方法を教えこまれて、人を殺しにやって来てるんじゃないか!」
 反感をなお強めながら、彼は、小屋の床をドシンドシン踏みならした。剣をつけた銃を振りまわした拍子に、テーブルの上の置ランプが倒れた。床板の上で、硝子《ガラス》のこわれるすさまじい音がした。
 扉の前に立っていた兵士達は、入口がこわれる程、やたらに押し合いへし合いしながら一時になだれこんできた。
 彼等は、戸棚や、テーブルや、ベッドなどを引っくりかえして、部屋の隅々まで探索した。彼等は、そこにある珍らしいものや、値打のありそうなものを、×××××××××××××××ろうとした。
 既に掠奪《りゃくだつ》の経験をなめている百姓は、引き上げる時、金目になるものや、必要
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