な品々を持てるだけ持って逃げていた。百姓は、鶏をも、二本の脚を一ツにくくって、バタバタ羽ばたきするやつを馬の鞍につけて走り去った。だが産んだばかりの卵は持って行く余裕がなかったと見えて、巣箱に卵がころがっていた。兵士は、見つけると、ばい取りがちをし乍《なが》ら慌《あわ》てて残されたその卵をポケットに拾いこんだ。
三
山の麓のさびれた高い鐘楼《しょうろう》と教会堂の下に麓から谷間へかけて、五六十戸ばかりの家が所々群がり、また時には、二三戸だけとびはなれて散在していた。これがユフカ村だった。村が静かに、平和に息づいていた。
兵士達は、ようよう村に這入る手前の丘にまでやって来た。
彼等はうち方をやめて、いつでも攻撃に移り得る用意をして、姿勢を低く草かげに散らばった。
「ここの奴等は、だいぶいいものを持っていそうだぞ。」
永井は、村なりを見て掠奪心を刺戟された。彼は、ここでもロシアの女を引っかけることが出来る――それを考えていた。
「おい、いくら露助だって、生きてゆかなきゃならんのだぜ。いいものばかりをかっぱらわれてたまるものか!」
栗本の声は不機嫌にとげ立っていた
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