。
「なあに、××が許してることはやらなけりゃ損だよ。」
珍しい、金目になるものを奪い取り、慾情の饉《う》えを満すことが出来る、そういう期待は何よりも兵士達を勇敢にする。彼等は、常に慾情に飢え、金のない、かつかつの生活を送っていた。だから、自分に欠けているものがほしくてたまらなかった。そこの消息を見抜いている×××は、表面やかましく云いながら、実は大目に見のがした。五十銭銀貨を一つ盗んでも禁固を喰う。償勤兵とならなければならない。それが内地に於ける軍人である。軍人は清廉潔白でなければならない。ところが、その約束が、ここでは解放されているのだ。兵士は、その××に引っかかって、ほしいものが得たさに勇敢に、捨身になるのだった。
「前島、その耳輪を俺によこしとけよ。」
兵士は命令を待っている間に、今さっき百姓小屋で取ってきた獲物を、今度はお互いに、口でだまして奪い合った。
「いやですよ、軍曹殿。」
「俺のナイフと交換しようか。」
ほかの声が云った。
「いやだよ。そんなもの十銭の値打もすりゃせんじゃないか。」
「馬鹿! 片ッ方だけの耳輪にどれだけの値打があるんだ!」
斜丘の中ほどに壊《こ
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