わ》れかけた小屋があった。そこで通訳が向うからやって来た百姓の一人に何か口をきいているのが栗本の眼に映じた。その側に中隊長と中尉とが立っていた。顔が黒く日に焦げて皺《しわ》がよっている百姓の嗄《しゃが》れた量のある声が何か答えているのがこっちまで聞えてきた。その声は、ほかの声を消してしまうように強く太くひびいた。
掠《かす》めたものを取りあっていた兵士達は、口を噤《つぐ》んで小舎の方を見た。十人ばかりの百姓が村から丘へのぼってきた。中隊長は、軍刀のつばのところへ左手をやって、いかつい眼で、集って来る百姓達を睨《ね》めまわしていた。百姓達には少しも日本の兵タイを恐れるような様子が見えなかった。
通訳は、この村へパルチザンが逃げこんで来ただろう。それを知らぬかときいているらしかった。
いくらミリタリストのチャキチャキでも、むちゃくちゃに百姓を殺す訳にや行かなかった。パルチザンはそれにつけこんで、百姓に化けて、安全に、平気であとから追っかけて来た軍隊の傍を歩きまわった。向うに持っている兵器や、兵士の性質を観察した。そして、次の襲撃方法の参考とした。
中隊長は、それをチャンと知っていた
前へ
次へ
全34ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒島 伝治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング