。しかし、パルチザンと百姓とは、同じ服装をしていれば、見分けがつかなかった。
「逃げて行くパルチザンなんど、面倒くさい、大砲でぶっ殺してしまえやいいじゃないか。」
 小屋のところをぶらぶら歩きながら無遠慮に中隊長の顔を見ていた男が不意に横から口を出した。
 その男は骨組のしっかりした、かなり豊かな肉づきをしていた。しかし、せいが高いので寧《むし》ろ痩《や》せて見える敏捷《びんしょう》らしい男だった。
 見たところ、彼は、日本の兵タイなど面倒くさい、大砲で皆殺しにしてしまいたいと思っているらしかった。
 それが目的格をとっかえて表現されているのだった。
 中隊長は、通訳からその意味をきくと、じろりと、いかつい眼で暫らくその男を睨みつけた。
「そんなことをぬかす奴が、パルチザンをかくまっているんだ。」
 中隊長は日本語で云った。
「そっちにゃ、大砲を沢山持ってるんだろう。」
 その男は、中隊長のすごい眼には無頓着に通訳にきいた。
 再び中隊長は、じいっとその男を睨みつけた。中尉が、中隊長の耳もとへ口を持って行って何か囁いた。
 兵士達には攻撃の命令が発しられた。
 骨組のしっかりした男の表
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