情には、憎悪と敵愾心《てきがいしん》が燃えていた。それがいつまでも輝いている大きい眼から消えなかった。
四
百姓たちは、たびたび××の犬どもを襲撃した経験を持っていた。
襲撃する。追いかえされる。又襲撃する。又追いかえされる。負傷する。
彼等は、それを繰りかえしていた。そのうちに彼等の憎悪と敵愾心はつのってきた。
最初、日本の兵士を客間に招待して紅茶の御馳走をしていた百姓が、今は、銃を持って森かげから同じ兵士を狙撃《そげき》していた。
彼等の村は犬どもによって掠奪され、破壊されたのだ。
ウォルコフもその一人だった。
ウォルコフの村は、犬どもによって、一カ月ばかり前に荒されてしまった。彼は、村の牧者だった。
彼は村にいて、怒った日本の兵タイが近づいて来るのを知ると、子供達をつれて家から逃げた。ある夕方のことだった。彼は、その時のことをよく覚えている。一人の日本兵が、斧《おの》で誰れかに殺された。それで犬どもが怒りだしたのだ。彼は逃げながら、途中、森から振りかえって村を眺めかえした。夏刈って、うず高く積重ねておいた乾草が焼かれて、炎が夕ぐれの空を赤々と焦が
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