していた。その余映は森にまで達して彼の行く道を明るくした。
家が焼ける火を見ると子供達はぶるぶる顫《ふる》えた。「あれ……父《と》うちゃんどうなるの……」
「なんでもない、なんでもない、火事ごっこだよ。畜生!」彼は親爺《おやじ》と妹の身の上を案じた。
翌朝、村へ帰ると親爺は逃げおくれて、家畜小屋の前で死骸《しがい》となっていた。胸から背にまでぐさりと銃剣を突きさされていた。動物が巣にいる幼い子供を可愛がるように、家畜を可愛がっていたあの温《おとな》しい眼は、今は、白く、何かを睨みつけるように見開《みひらか》れて動かなかった。異母妹のナターリイは、老人の死骸に打倒れて泣いた。
長男は、根もとから折られた西洋桜を、立てらしてつぎ合わそうとした。それは、春、長男が山から掘ってきて、家の前に植えたものだ。子供は、つぎ合わせば、それがいきつくもののように、熱心に、倒れようとする桜を立てらした。しかし、駄目だった。
壊された壁の下から鍬《くわ》を引っぱり出して、彼は、親爺の墓穴を掘りに行った。
村中の家々は、目ぼしい金目になるようなものを掠奪せられ、たたきつぶされていた。餌がなくて飢えた
前へ
次へ
全34ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒島 伝治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング