思わず頸をすくめた。その拍子に馬はびっくりしてはね上った。そして尻をしたたかにぶん殴られたように前方へ驀進《ばくしん》した。隊長は、辷《すべ》り落ちそうになりながら、
「おォ、おォ、おォ!」
と悲しげな声を出した。
「誰れか来て呉れい!」彼は、おおかた、口に出して、それを叫ぼうとした。
 左側の樅《もみ》やえぞ松がある山の間にパルチザンが動いているのが兵士達の眼に映じた。彼等は、すぐ地物のかげに散らばった。
 パルチザンは、その山の中から射撃していたのだ。
 パルチザンは、明らかに感情の興奮にかられているようだった。
 その森の中からとんで来る弾丸は髪の毛一本ほどにま近く、兵士の身体をかすめて唸った。

       六

 パルチザンは、山伝いに、カーキ色の軍服を追跡していた。
 彼等は空に向って、たま[#「たま」に傍点]をぶっぱなしたあの一角から、逃げのびた者だった。――その中には馬を焼かれたウォルコフもまじっていた。
 そこらへんの山は、パルチザンにとって、自分の手のようによく知りぬいているところだった。
 村を焼き討ちされたことが、彼等の感情を極端に激越に駆りたてていた。
 弾
前へ 次へ
全34ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
黒島 伝治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング