って中佐に抜てきされる。……ただ一つ、彼の気に喰わぬことがあった。それは、鉄砲を空に向けて、わざとパルチザンを逃がしてしまった兵タイがあることだった。だが、それは表沙汰にして罰すると、自分の折角の勲功がふいになってしまうのだった。部下を指揮する手腕が十分でなかった責任は当然彼の上にかかって来るからだ。不届きな兵タイは、ほかの機会にひどいめにあわしてやることにして、今は、かくしておくことにした。その方が利巧な方法だ。
「閣下も討伐の目的が達して、非常にお喜びになることでしょう。」
あとから来ている副官が云った。閣下とは司令官のことだ。
「うむ。」
大隊長は、空へ鉄砲を向けた兵タイのことは忘れて、内心の幸福を抑えることが出来ずにこにこした。
「全く、うまく行きましたな。」
「うむ。――ご苦労だった。」
――彼はまた、功四級だろうか、それとも五級かな、と考えた。ひょっとすると、三級にありつけるかもしれんて。この頃は、金鵄も貰い易くなっているからな。そうすると、年金が七百円とれると……
不意に、どこからか、数発の銃声がして、彼の鼻のさきを、ヒュッと弾丸《たま》が唸ってとび去った。彼は、
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