が抛《ほう》って逃げた銃を見て見ろ。みんな三八式歩兵銃じゃないか!」
「うむ、そうだな!」
が、噂は、やはり無遠慮にはげしくまき散らされだした。
ある夕方、彼等が占領地から営舎に帰ると、慰問袋と一緒に、手紙が配られてあった。
「今年は、こちらだけでなく北海道も一帯にキキンという話だ、年貢をおさめて、あとにはワラも残らず……」和田はそれを読んでいた。と、そこへ伍長が、江原を呼びに来た。
「何か用事ですか?」江原は不安げに反問した。
「何でもいい。そのまま来い!」
「どんな用事か、きかなきゃ分らないじゃないですか!」
「なにッ! 森口も浜田も来い!」
江原だけでなく五六人が手紙も読みさしで、しぶしぶ起って行った。かれらは一列になって出て行った。あとに残った和田達は、無言でお互に顔を見合わしていた。
江原達はそのまま帰ってこなかった。
翌日未明に、軍隊は北進命令を受けた。
二十六時間の激戦や進軍の後、和田達は、チチハルにまで進んだ。煮え湯をあびせられた蟻のように支那兵は到るところに群をなして倒れていた。大砲や銃は遺棄され、脚を撃たれた馬はわめいていた。和田はその中にロシア兵がいる
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