チチハルまで
黒島伝治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)抛《ほう》って

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)四※[#「さんずい+兆」、第3水準1−86−67]線
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       一

 十一月に入ると、北満は、大地が凍結を始める。
 占領した支那家屋が臨時の営舎だった。毛皮の防寒胴着をきてもまだ、刺すような寒気が肌を襲う。
 一等兵、和田の属する中隊は、二週間前、四平街を出発した。四※[#「さんずい+兆」、第3水準1−86−67]線で※[#「さんずい+兆」、第3水準1−86−67]南に着き、それからなお二百キロ北方に進んだ。
 兵士達は、執拗な虱の繁殖になやまされだした。
「ロシヤが馬占山の尻押しをしとるというのは本当かな?」もう二十日も風呂に這入らない彼等は、早く後方に引きあげる時が来るのを希いながら、上からきいた噂をした。
「ウソだ。」
 労働組合に居ったというので二等兵からちっとも昇級しない江原は即座にそれを否定した。
「でも、大砲や、弾薬
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