を供給してるんじゃないんか?」
「それゃ、全然作りことだ。」
「そうかしら?」
 大興駅附近の丘陵や、塹壕には砲弾に見舞われた支那兵が、無数に野獣に喰い荒された肉塊のように散乱していた。和田たちの中隊は、そこを占領した。支那兵は生前、金にも食物にも被服にもめぐまれなかった有様を、栄養不良の皮膚と、ちぎれた、ボロボロの中山服に残して横たわっていた。それを見ると和田は何故とも知れず、ぞくッ[#「ぞくッ」に傍点]とした。
 一度退却した馬占山の黒龍江軍は、再び逆襲を試みるために、弾薬や砲を整え、兵力を集中していた。ロシアは、それを後援している。
「支那人朝鮮人」共産軍がブラゴウェチェンスクから増援隊として出動した。そういう噂が、各中隊にもっぱらとなって来た。
「――相手は、支那兵だけではないんである。皆は、決して、油断をしてはいけない! いいか!」
 鯖ヒゲの中隊長が注意を繰かえした。
 前線から帰ってくる将校斥候はロシヤ人や、ロシアの大砲を見てきたような話をした。
「本当かしら?」
 和田達多くの者は、麻酔にかかったように、半信半疑になった。
「ロシヤが、武器を供給したんだって? 黒龍江軍
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