すると悲しくてたまらなくなって来た。顔を煙突につけると、煉瓦は中を通る煙の熱で温くなっていた。頭がずきんずきん痛んだ。手を触れると、丁度てっぺん[#「てっぺん」に傍点]が腫れ上っていた。
彼は煙突の方に向いて両手で顔を蔽うて泣いた。
仕事が始る時、従兄がやって来て、
「阿呆が、もっと気を付けい!」と云った。
併し、京一は、それを聞いていなかった。彼は、何故か自分一人が馬鹿にせられているようで淋しく悲しかった。
「もうこんなとこに居りゃせん!」
彼は、涙をこすりこすり、手拭いで頬冠りをして、自分の家へ帰った。皆の留守を幸に、汚れている手足も洗わずに、蒲団の中へもぐり込んだ。
暫らくたつと、弟を背負って隣家へ遊びに行っていた祖母が帰ってきて、
「まあ、京よ、風邪でも引いたんかいや。――頬冠りだけは取って寝え。」と云った。
が彼は、寝た振りをして動かなかった。
夕方には、山仕事に行っていた父母が帰った。
祖母は、風邪には温いものがいいだろうと云って、夕飯に芋粥を煮た。京一は、芋粥ばかりを食い、他の家族は、麦飯に少しの芋粥を掛けてうまそうに食った。
「飯食う時だけは、その頬冠りを
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