まかないの棒
黒島傳治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)仁助《にすけ》が

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)てっぺん[#「てっぺん」に傍点]が

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)もや/\した。
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 京一が醤油醸造場へ働きにやられたのは、十六の暮れだった。
 節季の金を作るために、父母は毎朝暗いうちから山の樹を伐りに出かけていた。
 醸造場では、従兄の仁助《にすけ》が杜氏《とうじ》だった。小さい弟の子守りをしながら留守居をしていた祖母は、恥しがる京一をつれて行って、
「五体もないし、何んちゃ知らんのじゃせに、えいように頼むぞ。」
 と、彼女からは、孫にあたある仁助に頭を下げた。
 学校で席を並べていた同年の留吉は、一ヶ月ほど前、醸造場へ来たばかりだったが、勝気な性分なので、仕事の上では及ばぬなりにも大人のあとについて行っていた。彼は、背丈は、京一よりも低い位《くら》いだったが、頑丈で、腕や脚が節《ふし》こぶ立《だ》っていた。肩幅も広かった。きかぬ気で敏捷だった。そして、如何にも子供ら
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