大将になった坊っちゃんのあとにはボール紙を円く巻いて口にあてがった、喇叭卒がつづいていた。
猫は、跛を引いて逃げ帰ると、納屋の隅にうずくまって、殴られた足をかばうようにねぶった。
「猫を出せエ、こらッ! 猫を出せエ、こらッ!」兵隊になった子供達は、おりくの家のまわりを囲んで叫んだ。
ばあさんは、また一日をつぶして、「紋」を手籠に入れて捨てに行った。今度は、上り一里、下り一里半の山を越して遠くへ行った。
「やれ/\寛ろいだ。もうこれで戻りゃせんじゃろうんの。」晩に暗くなってから、ばあさんは家へ帰って、「どこぞで風呂を一っぱい貰いたいもんじゃ。――ああ、シンドかった。」
「太衛門にゃ風呂場から煙が出よったけれど、入りに来い云うて来りゃせんがい。」と、じいさんは井戸端で足を洗ってきて云った。
「せんど風呂に入らんせに、垢まぶれになった上に汗をかいて、気色が悪るうてどうならん。」
二人は、もう殆ど一カ月ばかり風呂に入っていなかった。夏だったら行水が出来るのだが、秋も十一月の初めになっては行水どころではなかった。
「まあ、今夜は、乾手拭ででも身体を拭いて辛抱せい。二三日たったら、またもとの
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