ように旦那んとこで入れて貰えようだイ。」と、じいさんは云って、自分で掘って来て蒸した芋を頬ばった。
 けれども、一日おいて、猫は再び帰って来た。そして、以前と同様に魚を盗んだり、鶏をねらったりした。
 子供達は、もう忘れてしまったように猫をいじめなかった。が、その代り、大人が、見つけ次第に礫を投げつけたり、棒でぶん殴りに来たりした。
「また味をつけて鶏を捕りやがった。今度は雛じゃなしに鶏じゃ。」地主の下男が、喧嘩腰で、また奴鳴りこんできた。
「一体、お前等が悪いんじゃ。戻らんとこへ捨てりゃえいことを、捨てもせず、放ったらかしじゃせに、よその鶏を捕るんじゃ。これは三円もする鶏じゃないかい。――こんなことしよったら、田や畠も旦那に取り上げられて、作らして呉れやせんぞイ。」
 下男は、鶏が一羽なくなったところで自分の損でもないのに、如何にも惜しそうな調子で文句を並べたてた。
 猫は、後脚に礫をあてられて、血を流しながら竈の傍につくなんでいた。
「今度見つけたら、見つけ次第に叩き殺してやる!」下男はこんな捨てせりふを残して去った。
「殺されたら可愛そうじゃせに、よそイ出て行かんように、家につな
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