るが、前のほうと背後のほうへ垂らして置く法で、髪が乱れないように、両方の耳のあたりを布でむすんで垂れて置くのである。
 この振分髪がもっと伸びると、背の上部で布か麻でむすんで垂れ髪にするのである。この髪のたばねかたにもいろいろあるにはあったが、普通はひととこだけ束ねむすんでうしろへ垂れた。
 また二筋に分けて前とかうしろへ垂れるのもあった。これを二筋垂髪と呼んだ。
 この長い髪は、夜寝るときには枕もとにたばねて寝たのであるが、ひんやりとしたみどりの黒髪の枕が、首筋にふれる気持ちは悪くはなかったであろうと思う。

 近来は女性の髷もいちじるしい変化をみせて来て、むかしのように髷の形で、あの人は夫人であるか令嬢であるかの見別けがつかなくなった。
 いまの女性は、つとめてそういったことをきらって、殊更に花嫁時に花嫁らしい髪をよそおうのを逃げているようである。
 夫人かとみれば令嬢のごときところもあり、令嬢かとみれば夫人らしきところもあり……というのが、今の花嫁である。
 そのむかし源平合戦の折り加賀の篠原で、手塚太郎が実盛を評して、侍大将と見れば雑兵のごときところあり、雑兵かとみれば錦のひた
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