たれを着して候――と面妖気に言ったあの言葉を憶い出して苦笑を禁じ得ないのである。
以前は若い女性は結婚というものを大きな夢に考えて憧れていたから、花嫁になると、すぐにその髪を結って、
「私は幸福な新妻でございます」
と、その髪の形に無言の悦びを結びつけてふいちょう[#「ふいちょう」に傍点]してあるいたのであるが、今の女性は社会の状態につれて、そのようなことを愉しんでいるひまがなくなったのででもあろうか、つとめてそういったことを示さぬようになって来た。
結婚前も結婚後も、雀の巣のようにもじゃもじゃした電気のあとをみせている。「簡単」どころか髪をちぢらすのには種々の道具がいる。せっかくふさふさとしたよい黒髪をもって生まれながら、わざわざ長い時間をかけてその黒髪をちぢらしている。私なぞの櫛巻は一週間に一度三十分あれば結える、そして毎朝五分間で髪をなでつけ身仕度が出来る簡単さとくらべれば、わざわざ髪をちぢらすのにかける時間の空費は実にもったいないことである。私にはどういう次第か、あの電髪というものがぴんとこない。
パーマネントの美人(私はパーマネントには美は感じないのであるが)は、いく
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