の御歌合せの御会へのぞみました。
集まる人々には河内の躬恆《みつね》、紀の貫之、右衛門の府生《ふしょう》壬生|忠岑《ただみ》、小野小町、大伴黒主はじめこの道にかけては一騎当千の名家ばかり――その中で、いよいよ小町の歌が披露されると、帝をはじめ奉り一同はこれ以上の歌はまずあるまいといたく褒められたが、そのとき黒主は、
「これは古歌にて候」
と異議の申し立てをし万葉の歌集にある歌でございますと、かねて用意の草紙を証拠にさし出しましたので、小町は進退に窮し、いろいろと歎きかなしみますが、ふとその草紙の字体が乱れているのと、墨の色が違っているのを発見したので、帝にそのことをお訴え申し上げたところ、帝には直ちにおゆるしがありましたので、小町はその場で草紙を洗ったところ、水辺の草の歌はかき消すがごとく流れ去って、小町は危いところで歌の寃罪からのがれることが出来たのであります。
なかなかよく出来た能楽で小町が黒主から自分の歌を古歌と訴えられて遣る方のない狂う所作はこの狂言の白眉であって、それをお演《や》りになられる金剛先生のお姿は全く神技と言っていいくらいご立派なものでした。
私は小町の
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