謡曲と画題
上村松園

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)窮恒《みつね》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)壬生|忠岑《ただみ》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)波のうね/\生ひ茂る
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 下手の横好きと言いますか、私は趣味のうちでは謡曲を第一としています。
 ずっと以前から金剛巌先生について習っていますが今もって上達しません。べつだん上手になろうともしないせいか、十年一日のごとく同じ下手さをつづけている次第です。

 謡曲をやっていますと身も心も涼風に洗われたように清浄になってゆく自分を感じるのであります。

 謡曲にもちゃんとした道義観とでもいうものがあって、人間のあゆむべき正しい道とか、あるいは尚武剛気の気性を植えつけるとか、貞操の観念を強調するとか――とにかく謡曲のなかにうたわれている事柄は品位があって格調の高いものであり、それを肚の底から声を押し上げて高らかにうたうのですから、その謡い手の身も心も浄化されてゆくのは当然のことと言わねばなりません。

 それで謡曲に描かれている事象はすべ
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