時に私が、それを発見することになる訳なのです。ですから、こんな機会に発見するのは知れた数なのですが、そんなことになって方々持ち回られたり、また所蔵されたりしているのが、幾らあるか分りません。
 箱書に持って見える人は、恐らく、他《よそ》から手に入れたものに違いありませんが、そんな直し物などとは知らずに持って来られるのでしょう。また知っていたら持って来られもしないだろうと思います。
 ついこの間も、ある方が松篁《しょうこう》の作品を持って来られて、箱書を頼んで帰られたのですが、あとで松篁がその作品を箱から出して見ますと、作品は確かに松篁のものに違いはないのですけれど、画いてある白桔梗の下に、当人の知らない蟋蟀《こおろぎ》が二ひき描き加えられてあったので、松篁はぷりぷり怒ってしまいまして、こんなものに箱書ができるかと申すのです。これは成程もっともなことで、自分の作品に、他人が手を入れたものへ、箱書などできない道理です。これなど、蟋蟀を描き加えたために、かえって作品が立派になっているのかも或いは知れませんけれども、立派になろうが悪くなろうが、そんなことはどうあろうと、とにかく、自分の作品とし
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