と思いますので、自儘に西陣のと取りかえるのもどうかと考えまして、そのまま用いますが、性に合わない絹へ描くことは、筆を執るものとして難儀なことの一つです。しかし絹がどうあろうと、作家としては、粗末に描く気などはもちろんありませんけれど、仕上がりについて何処か自然ぴったりしない点などあるかを心遣います。

     ○

 以上のようなことは、心遣いといっても知れたことですが、作家として一とう困ることは、自分の作品でもないものが、自分の作品として世上に持ち回られたり、襲蔵されたりしていることです。こんなことはあってはならない筈なのですが、それが私どもが考えている以上に、実際行なわれているらしいので、そのことには多少気を痛めます。
 贋物《がんぶつ》や疑物ということは、折々耳にしないこともないのですが、それが案外多いらしい様子です。全然《まるっ》きりの私の贋物もありますが、一とう多いらしいのは直し物です。つまり私の作品の、たとえば人物の衣裳の色を濃く塗り直したのや、別の色をかけたのや、酷《ひど》いのになると、模様を書きこんだのやがあります。それをよく箱書してくれといって持って見えます。そんな
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