子供が出来ると、必ず眉を剃り落してそうしたものである。
これは秀でた美しい眉とまた違った風情を添えるものである。
結婚して子供が出来ると青眉になるなどは、如何にも日本的で奥ゆかしく聖なる眉と呼びたいものである。
いつの頃からかこの青眉の風習が消え失せて、今では祇園とかそういった世界のお内儀さんにときどき見受けることがあるが、若いひとの青眉はほとんど見られない。まして一般の世界にこの青眉の美をほとんど見出すことは出来ない。
青眉は子供が出来て母になったしるしにそうする――言い代えれば母の眉とも称うべきもので実にめでたい眉なのである。
十八、九で嫁入りして花ざかりの二十歳ぐらいで母になり、青眉になっている婦人を見るとたまらない瑞々しさをその青眉に感じるのである。
そして剃りたての青眉はたとえていえば闇夜の蚊帳にとまった一瞬の螢光のように、青々とした光沢をもっていてまったくふるいつきたいほどである。
そのうえ青眉になると、急に打って変って落ちつきのある女性に見えるのである。もちろん母となった故もあろうけれど……
私は青眉を想うたびに母の眉をおもい出すのである。
母の眉
前へ
次へ
全6ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
上村 松園 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング