京での帝展見物のついでに、物故作家の遺作展を見てまいりましたが、婦女風俗としての絵は殆どなかったと思います。
 中で、私の印象に強くのこっているのは、なんといっても、橋本雅邦先生の水墨で出来た天井絵《てんじょうえ》の龍です。とても凄じい筆勢のもので、非凡のものでした。あれを見ても雅邦という方の尋常人でなかったことがうなずかれます。
 この天井絵は、べったり置かれたもので、それになかなか大きいものですから、これを見るのに、立っていては見渡しがつかないので、四方に段々を拵えて、看者はこれに上って下に見おろすようになっていました。
 私もこの段々の上に立って見たのですが、実際恐ろしいほどの出来ばえのものです。
 雅邦先生も、これを描く時には、必ずや亢奮的感興といったような気持で、描かれたものに違いありません。またそうでないと、あれだけのものは出来ないでしょう。

 高い、深い感興によって描いたものは、なかなか二つとは出来かねるものだと前に述べました。これについて一つの話があるのです。
 私は、かつて文展に出した「月蝕の宵」というのは、やはり屏風一双に描いたもので、女たちが、月蝕の影を鏡に映し
前へ 次へ
全6ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
上村 松園 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング