虹と感興
上村松園

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)頓《にわか》に
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 私は今婦女風俗の屏風一双を描いておりますが、これは徳川末期の風俗によったもので、もうそろそろ仕上りに近づいております。
 これは東京某家へ納まるものです。もちろん画題のことなどは殆ど私まかせのものですが、私も何か変った図を捉えたいと思いまして、日を送っていました。この依頼を受けたのは、夏前頃のことでしたから、図題も自然と夏季の初め、すなわち初夏頃のものになりました。

 私は、図題をきめるのに、かなり大事をとりますので、これにも、しぜん時日を要するわけですが、ある日の夕暮、私は、うちで行水を致しておりますと、ちょうどその時、涼しい一と夕立ちが上りまして「虹が立った、虹が立った」とうちのものが申します。それで、私も思わず行水から出て、東の方を見ますと、鮮やかな虹が立っておりました……その時私は、頓《にわか》にこの屏風の図題に思いついたのでした。私は虹を背景にして、人物を組立てることに、ほぼ案が立ったわけです。

 こういう不意の感興に打たれますと、案外早く図組《ずぐみ》なども心に
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