浮かんでくるものでして、私はその時に、あらまし立案だけは出来たのでした。
それで右の片双には、前に竹床几を置き、これに一人の娘が腰をおろしております。そしてその床几と人物の背後《うしろ》には、夏萩があります。夏萩は白い花をいい頃合に着けて、夕暮れ頃の雨上りの露を含んでおります。
左の片双には、娘が幼な児を抱いて立っておるのですが、この方へ、その背景に虹を用いたわけです。
一双の図組の中に出ている気分は、初夏のある夕べの雨上り、湿った空気の中に、軽い涼しさがさわやかに流れておるという点を出したいと思ったものですが、その爽やかさと、婦人の美しさが、互いに溶け合って、そこに一種の清い柔かい何かが醸し出されるなら、仕合せだと考えます。
虹は、七色から成立っておると申しますが、屏風のは、かっきり明らかに七色を組合せたというわけでもないのです。これはあまりかっきり出しますと、色彩的には美しいかも知れませんが、それでは調子を荒だてるようにもなりますから、そういう破綻《はたん》を出すまいと、私としてはかなり苦心してみました。
私はこの前、徳川喜久子姫の御入輿に、今は高松宮家に納まっていま
前へ
次へ
全6ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
上村 松園 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング