ないか。金魚はハダカでいても風邪ひかんもんやよって、着物《べべ》ぬがしておやり」
私は動かなくなった金魚を掌にのせて当惑しながら、母の言葉にうなずいた。
子供心に死んだ金魚を庭の一隅に埋めて小さな石のお墓をたてて母にその仕末を報告した。
母は濡れ縁に立って困った顔をしながら私に言った。
「お墓たててやるのはええことやが、せっかく生えた苔を掘り返しては何にもならへんやないか」
子供の私には良いこと悪いこととの区別が大人ほどはっきり判らなかった。
私はそんな折り心の中で首をかしげるのであった。
「どうしたら大人が褒めてくれる、ええことばかり出来るのであろう」
――と。
伜の松篁も私に似て金魚が好きであった。冬になると金魚鉢を菰でつつんで春まで暗くしておくのであるが、松篁は春になるまで待ちきれず、ときどき廊下の隅の金魚鉢の菰をひらいては隙見していた。そして好きな金魚が寒鯉のように動かずじっとしていると心配になるとみえて、竹のきれをもって来てすき間から金魚をついてみて金魚が動くとさも安心した顔をするのである。
私は静かに教えてやるのである。
「金魚は冬の間は眠っているのやよ
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