もとんび[#「とんび」に傍点]というのがよく来た。
新茶の出る時分になると、とんび(茶のブローカー)という商売人が宇治一品のお茶という触れこみで新茶を売りに来る。
この「とんび」が油断のならぬ代物で、こちらがうっかりしていると、宇治一品のお茶どころか、古いお茶をまぜたり田舎のお茶をまぜたりして怪しげなものをつかまされて、ひどい目にあわされるのである。
母はとんびの持ってくるお茶をいちいち飲みわけて、
「これは後口がしぶい。国の茶をおまぜやしたな」
といって相手の奸策を見破るほど鋭敏な舌を持っていた。
ごまかしが利かないとなると、さすがのとんびも兜をぬいで、よいお茶を運んでくるほかはなかった。
商人は、なんでもよい、仕入れて売って儲ければよい――というのではいけない。お客様にいい品を買って悦んで貰わねばいけない……と、母はいつも言っていられた。
今の商人にも、そのような良心が望ましいものである。
子供のころ金魚が好きでよく金魚鉢から金魚をすくい出してそれに赤い着物《べべ》をきせたりし、母に見つかって大目玉を頂戴したものである。
「それでは金魚可愛がったことにならへんや
前へ
次へ
全16ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
上村 松園 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング