人には少々難儀ですけれども、もし徒歩《かち》を厭わぬ人なら、却って楽しみです。
 赤土の、すがすがしい、春の光線の透いている藪があったり、五、六軒の農家があったり、椿、連翹《れんぎょう》、木蓮などが見えたり、畠地、小流れ、そんなものがあって、時々人にも出逢いますし、何ともいえないのんびりしたところです。
 ですから、そういう景色を好む人なら、少しも退屈どころか、却って興味の多い道筋です。いろいろな情景に目をひかれながらゆきますと、やがて大原野神社に着きます。この神社も古雅な、なかなか結構な社地で、とても幽邃《ゆうすい》なところでして、この辺からすでに桜がちらほら見えます。都会の人の息と風塵に染んだ花とは違っておりまして、ほんの山桜の清々《すがすが》しい美しさは、眼にも心にもしむばかりの感じでした。

     ○

 この社地の隣りが花の寺です。少し上り気味の坂にかかると、両側の松や雑木の間から、枝をひろげて、ハミ出ている桜が、登ってゆく人の頭の上にのしかかって咲いております、それはとても見事な美しさでした。
 山門をはいってずっと奥にゆきますと、鐘楼があって、そこにまた格好のいい見事
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